職場でダイバーシティとインクルージョンを高める方法
企業がダイバーシティとインクルージョンを高める取り組みに失敗する理由は何か、またポジティブな変化を起こすにはどうしたらよいかを考えます。


職場においてはダイバーシティとインクルージョンを実現すべきという主張には、誰もが賛同するでしょう。そのようにすれば、人材の定着につながるかもしれません。環境・社会・ガバナンス(ESG)のベストプラクティスを実践するのにも役立ちます。さらに、多様性に欠ける競合企業を利益の面で上回ることができるかもしれません。
しかし、ささいなことを変更し、マーケティング面で小手先の策を弄するだけでは、本当の意味でダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DEI)を実現し、持続させることは困難です。これは心と知性の問題であり、収益だけではなく、社員の健康と福祉に対しても長期的なコミットメントが必要です。
つまり、企業文化を制度から変えなければならないということです。戦略を立て、明確で測定可能な目標を設定することで変化を支えなければならないということ、また業務のあらゆる面に影響を及ぼす改革が必要だということでもあります。
この記事では、自分にできることと改善すべき点を探しているマネージャーやリーダーに向けて、どこから着手すればよいか、またどのように長期的な努力を続けるべきかを解説します。
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ダイバーシティとインクルージョンを高める取り組みが失敗する理由
変化というのは抵抗に遭うものです。リーダーやマネージャーが望んで起こした変化でも、それは変わりません。そしてインクルージョンとダイバーシティの場合、この問題に取り組むのは非常に困難なこと、または時間のかかることに感じられます。調査によると、多くの企業がダイバーシティとインクルージョン(D&I)に費やす時間は全体の20%に過ぎませんでした1。そして社員は、変化が起こり得るとは考えていなかったり、「マイノリティグループ」の一員として特別視されていると感じたり、逆差別の可能性があるとして反発したりするかもしれません。
リーダーによる関与の不足
World Environment CenterでプレジデントおよびCEOを務めていたTerry Yosie氏は、「多くの企業において、リーダーたちはDEIと企業理念を直接結びつけてはいません」と述べています。このような意識の不足または鈍感さは、企業の上から下へと浸透していくことになる、と同氏は述べました。
このようなことが起きてしまう理由は数多くあり、経営幹部の無関心さ、優先度の低さ、ROIの分かりにくさ、進捗を測るための信頼できる指標の不足などが挙げられます。自社のD&Iプログラムが実際にどれほどの効果を上げているのか、把握できている企業は50%もありません[SC7]。
CEOは、D&Iへのあらゆる取り組みを支持するべきです。また、その進捗に責任を負い、そうした取り組みの価値を企業の目標と理念に取り込むべきです。
NielsenのCEOを務めるDavid Kenny氏は、Chief Diversity Officerとしての役目を引き受けたことで、「私たち自身に高い目標を設定し、それを経営陣に周知し、決算など他の成果を測るのと同じように、効果を測定することができました」と述べています。
参加を必須にすることの影響
ハーバード大学が米国で実施した調査によると、ダイバーシティのトレーニングへの参加を必須にすると、ネガティブなレッテルを貼られること(人種差別主義者とみなされるなど)を恐怖に感じる人が増えるということです。また、そうしたトレーニングが必須となった要因であるグループ(通常は女性やその他のマイノリティグループ)に対して憤りを感じるようになります。
参加を選択制にすると、参加者は連帯感や自尊心を感じることができ、より意義深い体験になります。
形骸化したやり方
ダイバーシティの推進者でBWG Solutionsの創設者であるJanice Gassam Asare氏は、D&Iのトレーニングは受動的になりがちであると述べています。不祥事が起こった後に、被害を抑えるための対策としてトレーニングが行われるとそうなります。トレーニングが偽善的なものに感じられ、動機付けに欠け、D&Iの実践に向けたアプローチに一貫性がないことが露呈するかもしれません。
トレーニングプログラムは形骸化した方法で行われるべきではない、と同氏は述べています。トレーニングを開催しただけで、効果が保証されるわけではありません。
重要なのは、D&Iの推進を阻む信念や行動を変えることに主眼を置いた一貫性のあるアプローチと、そのアプローチをすべての社員にとって意義のあるものにすることです。そして議論を呼ぶかもしれませんが、多くの企業のマジョリティグループ、つまり白人男性を参加させることです。
透明性と機会均等が守られ、「誰もが礼節を持って扱われる職場」の一員として、すべての社員が計画プロセス、問題解決プロセス、意思決定プロセスに関与できなければなりません。
インクルージョンとエクイティのないダイバーシティ
D&Iプログラムは、ダイバーシティとインクルージョンとが同時並行で検討されていない場合、またはエクイティが除外されている場合に失敗します。
女性、有色人種、神経学的少数派や身体障がいがある人を数多く雇用しているからといって、その企業でインクルージョンが尊重されているとは限りません。
ダイバーシティは本質的には数の問題です。しかし、インクルージョンを実現するには、個々人が組織から受け入れられ、認められている必要があります。インクルージョンが浸透していれば、すべての社員が自分らしくいることができ、意思決定に関与でき、発言によって良くない事態が引き起こされることはありません。
エクイティとは、公正さと機会均等の追求です。エクイティは不均衡を解消し、一人ひとりの潜在能力を引き出して、すべての人を支援します。例えば、車椅子で問題なく移動できる環境を整備したり、同性カップルも異性のパートナーを持つ人と同じようにカップル向けの健康保険を利用できるようにしたりすることがエクイティです。
真実味と一貫性の欠如
「Pride」ロゴを商品に付けたり、黒人歴史月間を祝ったりしても、他の場面で企業がそのような人々を支援していなければ、単なるロゴやイベントで終わってしまいます。人種間の平等を口先だけでいくら唱えても、国外で働く有色人種の社員に最低賃金(またはそれ以下)しか払っていないのであれば、それはマーケティングレベルの失策であり、D&I戦略と呼べるものではありません。
“人種間の平等を口先だけでいくら唱えても、国外で働く有色人種の社員に最低賃金(またはそれ以下)しか払っていないのであれば、それはマーケティングレベルの失策であり、D&I戦略と呼べるものではありません。”
ダイバーシティ&インクルージョン戦略の策定方法
主な関係者を巻き込むには、明確なビジョンに基づき、成功をもたらすD&I戦略をリーダーが策定する必要があります。では、何をもって成功したと言えるのでしょうか。到達すべき主なマイルストーンにはどのようなものがあるのでしょうか。全体的なビジネス戦略に組み込むにはどうすればよいのでしょうか。
症状に目を向けるのではなく、問題の根本原因を知ろうとしている場合でも、偏見がそのプロセスに影響を与えることはあり得ます。そのため、考え抜かれたアプローチを採用して、できる限りデータと事実に基づいた決定を下す必要があります。
基本を重視する
D&Iタスクフォースのメンバーは、認識のすり合わせができているでしょうか。国連によると、ダイバーシティを表す特性は30種類以上あります2。つまり、ダイバーシティは人によって異なる意味を持つのです。また、組織内でもさまざまなレベル・規模で、さまざまな人のために運用されるものです。
ダイバーシティは主に次の4つのカテゴリに分けられます。
先天的なアイデンティティ
人種や民族性など、生まれつき備わっているとされる人口統計上の性質です。身体的能力やニューロダイバーシティ、年齢や世代(X世代、ミレニアル世代など)もここに含まれます。また、性的指向と性別もこのカテゴリです。
後天的なアイデンティティ
時間の経過とともに変化する可能性がある性質です。教育、社会経済的なステータス、宗教、市民権、居住地などです。
組織的な多様性
職務と責任、社歴、部署、所属団体などです。
世界観の多様性
所属政党、文化的背景、歴史認識などが含まれます。私たちは自分が属するこの世界を、経験に基づいて異なる目で見ています。
上記のいずれか、または複数のカテゴリで偏見と差別が生じる可能性があり、企業のさまざまな階層の社員に影響を及ぼしている場合もあります。例えば、企業に多数の女性社員がいても、指導的な上位の立場にはほとんど女性がいないかもしれません。
現状を確認する
現代において、ダイバーシティとインクルージョンへの取り組みをゼロの状態から始める企業はほとんどありません。この取り組みにおいては、これまでに達成したことと、まだ達成できていないことを把握することが不可欠です。
次の質問に答えてみてください。
ダイバーシティとインクルージョンを高めるためにすでに取り組んでいることは何ですか。
そこから有意義な変化は生まれましたか。
進捗をどのように測定していますか。
予定どおりに進んでいますか。
これまでに学んだことは何ですか。
企業として不足しているところはどこですか。
対象範囲は十分ですか。除外されている社員はいませんか。
組織としての意識の高さはどれほどのレベルですか。
現在の変化の速さを維持する、または速度を上げるための十分なリソースがありますか。
どのような点で最も大きな改善を図れそうですか。
現状把握のプロセスでは、所有しているデータの精査と同じほど、社員からのフィードバックが重要です。
D&Iの議論にすべての人を巻き込む
ダイバーシティとインクルージョンについてどのような認識を持っているか、また社内でどのような経験をしているかについては、リーダーと一般社員とで大きな相違があるかもしれません。
有効なD&I戦略には、多くの人の声が反映されているものです。戦略が有効であり続けるには、組織全域でのディスカッション、ディベート、フォーカスグループ、フィードバック、つながりを通して進化し、継続的に見直される必要があります。
重大な問題となるのは、グループや個人によっては、文化的または個人的な理由で、声を上げるのが難しかったり、声を上げられなかったりすることです。議論を前に進めるために必要なのは、情報を提供するすべての人が守られる環境です。多くの場合、秘密が守られる匿名のスタッフ向けアンケートが役立ちます。
分かりやすく、透明性が保たれた効果的なコミュニケーションは、D&I戦略を構成する重要な要素の1つです。例えば、D&I戦略において自分の役割をどのように果たせるかをすべての社員に周知し、進捗を定期的に知らせ、新しい目標や変更された目標があれば紹介・説明し、功績を称えるといったことです。
進捗を追跡する
適切な指標を設定することで、D&I戦略は現実的なものになります。ダイバーシティは比較的測定しやすいものですが、インクルージョンはそれよりも複雑です。価値、信念、知識、スキルは、そもそも状況に左右されるものであるため、定義付けが困難です。グローバル企業の場合はとりわけ難しいでしょう。
企業コンサルティング会社のKornferryは、行動と構造の両方のインクルージョンを企業内で測定することをすすめています。行動とは、マインドセット、スキルセット、他者との関係に関連しています。構造とは、社員と顧客のためのシステム、プロセス、運用のことです。
適切に測定することには、時間をかけるだけの価値があります。
Gartnerの調査によると、D&Iをしっかりと測定している組織は社員に説明責任を果たしており、そうしたアプローチを採っていない同業他社に比べて、組織のインクルージョンが最大で20%増加するとのことです。
ダイバーシティとインクルージョンを測定する5つの方法
人材の獲得と定着
新入社員がなぜ入社したのか、離職者がなぜ離職するのかを把握することは有益なヒントになります。ダイバーシティとインクルージョンは、求職者にとって重要な検討事項です。就職先を決定するときに、76%の応募者がD&Iを考慮に入れています3。一方、退職者に聞き取りを行うことで、会社を離れていく理由について貴重な情報を得ることができる場合があります。
社員のエンゲージメント
インクルージョンが浸透した企業は、社員と社員による貢献を価値あるものと考え、尊重します。そうすることで、エンゲージメントとロイヤルティが培われます。簡単なパルスサーベイを実施すれば、年次レビューで得られるものと比べて、変化の激しい状況下でも、より現状にあった有益な情報を取得できます。
インターセクショナリティの分析
インターセクショナリティの分析によって、組織内のダイバーシティの全体像を把握し、少数派の人々と雇用時のバイアスという領域に注意を向けることができます。この分析では、社員に影響を与える、複数の要素の組み合わせを検討します。例えば「特定の年代のアジア人の男性」「大学教育を受けた白人の女性」などです。
顧客からの信頼
D&Iはエンゲージメントを強めます。調査によると38%の顧客が、広告でダイバーシティを打ち出しているブランドをより強く信頼する可能性が高くなります。64%の顧客は、ダイバーシティまたはインクルージョンが感じられる広告を見た後にアクションを起こします。
個人別の目標
すべてのリーダーとマネージャーがD&Iの目標を設定すれば、企業全体で説明責任が維持され、個人レベルで効果を測定できるようになります。例えばBBC(英国放送協会)では、性別、民族性、障がい、LGBTQ+のエクイティの目標に基づいて、各リーダーのパフォーマンスと進捗が評価されます4。
ダイバーシティとインクルージョンの課題を乗り越える
企業が他者と関わりを持たずに事業を行うことはできません。ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンは世界的に優先事項として扱われるようになっており、それに伴って法律や規制、リソースや支援が整備されています。
しかし日常レベルでは、難しい議論を進める役目はリーダーやマネージャーにあります。自覚の有無にかかわらず、前進を妨げるような偏見を持っていないかを自らに問いかけ、社員の状況に耳を傾ける必要があります。
課題に対処するにあたっては、サードパーティに客観的な立場から手助けしてもらえれば、余すところなく課題に立ち向かい、乗り越えることができます。
道のりは平坦ではありませんが、首尾良く前に進むことができれば、リーダーやマネージャーも、一般社員も、そして企業も、正しい道を歩んでいることを確信できるでしょう。
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