適切な人材の採用から目標の達成に至るまで、組織文化は極めて重要な役割を担っています。しかし万能薬ではありません。企業文化は企業ごとに異なり、企業としてのアイデンティティを支えるものです。

Harvard Business Review誌によれば「優れた組織文化は、組織のビジョン、目的、目標の一貫性を維持する支えになります」。

これを前提にすると、職場には文化的な柔軟性と継続的な進化が必要だということになります。リーダーは、そのビジネスにとって最もクリエイティブで生産的な職場文化(通常は複数の文化の組み合わせ)を目指し、それを奨励する必要があります。だからこそ、組織文化の種類とその長所・短所を理解することが必要なのです。

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ポジティブな企業文化の醸成はなぜ大事なのか?

ポジティブな企業文化の醸成はなぜ大事なのか?

米国のSHRM(労務学会)が2020年に発表したレポートによれば、不健康な職場は、企業に何十億ドルもの損失を与えています。その調査では、半数近くの社員が「企業文化に問題があったために、今の会社を辞めようと思ったことがある」と回答しています。そして、ほぼ5人に1人が過去5年以内に、まさにそのような理由で離職しているのです。

また、マネージャも良好な職場環境の価値を認識しています。全米経済研究所(National Bureau of Economic Research)は、経営幹部の10人中9人が、企業文化(および全体的な従業員体験)を改善すれば組織の価値が高まると考えていることを明らかにしました。これに対して自社の文化は理想的な状況にあると考える人は16%に過ぎません。

組織文化という考え方はどこから来たのか?

組織文化という考え方はどこから来たのか?

カナダの精神分析医であり、経営コンサルタントでもあったElliott Jaques氏は、1951年に発表した著書『変化する工場の組織文化(The Changing Culture of a Factory)』の中で組織文化タイプの概念を提唱した人物として最もよく知られている人物です。しかし、このアイデアが人々に広く受け入れられたのは、それから30年後のことでした。

それ以来、学者、心理学者、作家が個人の経験や研究に沿って独自のカテゴリを提唱し、さまざまな形で展開しています。そこから得られたインサイトにより、ビジネスリーダーは効果的に自社の文化に関わり、それを評価し、発展させることができます。

組織文化のさまざまなタイプ

組織文化のさまざまなタイプ

企業文化に決まった一覧表があるわけではありませんが、ミシガン大学のKim Cameron氏とRobert Quinn氏が定義した4つのスタイルが代表的なものとして挙げられます。クラン、アドホクラシー、ヒエラルキー、マーケットの4つです。どんな組織にもその組織特有の組み合わせがあるというわけです。

クラン文化

クラン文化

クラン文化は多くの中小企業、新興企業、家族経営の組織に見られる特徴で、内部に重点を置いています。社内で働く人を育て、対人関係、コミュニケーション、コラボレーションを重視します。そうした活動を通じて、1つの大家族を作り上げることを目指しています。

クラン文化の強み

クラン文化の強み

従来の組織階層はどの組織も似たり寄ったりな構造でしたが、これに代わって、クラン文化は垣根を取り払い強固で結束力のあるチームを生み出します。メンタリングによって人間関係を築くことが盛んに行われ、人々は知識を共有し、リーダーはフィードバックやアイデアを求めて部下に気軽に声をかけるようになります。また、変化を受け入れるモデルでもあります。スタートアップ企業の柔軟性を考えてみてください。

クランモデルは従業員の間に幸福感をもたらします。評価され、サポートされ、尊敬されていると感じている従業員はより一層熱心に努力する傾向にあり、それは人々にとっても、ビジネスにとっても良いことです。

リモートワークを採用している企業や、営業担当者などフロントラインで働く人やデスクレスワーカーを多く抱える企業にとって、このような組織文化はチームを団結させ、忠誠心を高める大きな力となり得ます。

クラン文化の弱点

クラン文化の弱点

企業規模が大きくなると、このような横並びの構造では、ビジネスを推進し、明確な方向性を示すために必要な強力で果断なリーダーシップを欠くため、限界が生じる可能性があります。全員の味方であろうとするリーダーは、権威を行使したり、不人気な決断を下すことが難しくなります。

また、個性を重視するあまり、意思決定に必要なヒエラルキーがなく、個性のぶつかり合いになることもしばしばです。自分の居場所を見失うこともあります。ルールがないように見えることで、差別などの不適切な行為が行われる可能性も出てきます。

また、クラン文化の下ではグループの総意に反する発言をしにくい雰囲気が広がっている可能性もあります。

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アドホクラシー文化

アドホクラシー文化

アドレナリンで動く文化、現状を打破することに喜びを感じる文化です。アドホクラシー文化は、リスクをとる覚悟があることが特徴で、革新性と自発性を尊び、自信をもって変化の波に乗ることをよしとします。また、失敗は早く済ませるべきと考え、失敗から素早く学び、次の機会に同じ過ちを繰り返しません。ハイテク企業はその典型で、起業家精神にあふれ、ダイナミックで先見性に富んでいます。

アドホクラシー文化の強み

アドホクラシー文化の強み

この組織文化では多くの場合、利益率と従業員エンゲージメントの両面において、高い目標を掲げ、またかなりの確率でその目標を達成します。この文化モデルでは、自信とクリエイティビティが評価され、優れたアイデアを持つ人には、社内での立場に関係なく、常にチャンスが与えられます。

ブレーンストーミングにおいては、各人が提供する情報の質が重視され、個人がプロフェッショナルとしての資質を伸ばしやすい環境です。アドホクラシーはクラン文化と同様に柔軟性に富みますが、将来を見据えた外向きなアプローチを採用しています。アドホクラシー文化では「他の人ができないこと、やっていないことは何か」という視点で考えます。

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アドホクラシー文化の弱点

アドホクラシー文化の弱点

個人主義的なアプローチを是とするアドホクラシーは、職場の競争を激化させる恐れがあります。これは大いにモチベーションを高める一方で、同僚に負けて経済的・評判的に損をすることを恐れる社員が、過度のストレスや不安を抱える危険性もあります。

また、リスクを取って大きな賭けをするビジネスでは、そのリスクが報われない可能性も常にあります。それは個人だけでなく、組織自体にもダメージを与えることになります。

マーケット文化

マーケット文化

組織文化タイプの中で最も攻撃的なタイプです。目標、納期、結果を出す必要性に駆られ、スタッフのパフォーマンスも厳しくチェックされる職場です。クラン文化やアドホクラシー文化は柔軟性を認めますが、マーケット文化が機能するには安定性が必須となるため、この文化は大企業や老舗企業によく見られる特徴です。

また、外向き志向で、組織として顧客の目を常に意識し、競合他社にどう勝つかを考えています。他者からの評価や、競合相手より一歩先を行けるかどうかが重視されます。

マーケット文化の強み

マーケット文化の強み

とにかく結果を出すことです。成功に徹底的にこだわり、野心的なリーダーによって成果を上げるよう駆り立てられたチームは、多くの場合、目標を達成し、期待を上回り、利益を最大化させます。

マーケット文化では、顧客や株主に大きな利益をもたらすためチームが団結します。従業員にとってもやりがいのある環境となり得ます。手厚い報酬を得られるだけでなく、継続的な専門的学習と能力開発を奨励する職場だからです。

マーケット文化の弱点

マーケット文化の弱点

燃え尽き症候群です。厳しい競争環境の中で常に成果を求められると、社員の健康や幸福感、コラボレーション能力に大きく影響します。生産性やモラルに影響を与え、収益にダメージをもたらす恐れがあります。

ヒエラルキー文化

ヒエラルキー文化

全員に居場所があり、全員が自分の居場所にいます。この特殊な組織文化には、形式的な決まりがあり、トップのリーダーや指揮系統が確立されています。要するに伝統的な企業構造です。

ヒエラルキー文化の強み

ヒエラルキー文化の強み

役割と責任が明確化されることで、効率性が高まり、調整と組織化が可能になります。リスクをとるアドホクラシー文化とは異なり、このモデルは方針、計画、プロセス、精度を何よりも重視します。安定した事業運営を第一に、少しずつ変化しながら着実に成長することを目指しています。

明確な方向性を好む人には、最適な職場環境といえるでしょう。この構造は安心感を生み、昇進、そしてそれに伴う地位や影響力の向上への明確な道筋を示します。これは、従業員のモチベーションを高めることにもつながります。

ヒエラルキー文化の弱点

ヒエラルキー文化の弱点

安定はすぐに硬直化します。ヒエラルキー文化がコントロール文化とも呼ばれるのは、当然のことかもしれません。自発的な創造性を発揮する余地はほとんどありません。このイノベーションの精神がなければ、企業の適応は遅れ、競争力が低下する危険性があります。ヒエラルキー文化では人生経験よりも組織上の位置付けが重視されるのです。

このモデルでは、育児や病気など、働き方の柔軟性が必要な人のニーズに応えられないことがよくあります。会社のニーズを常に最優先しなければならないからです。一方、昇進という評価方法は不健全な競争をもたらす可能性があります。

コストも高くなることがあります。上層部が何重にもなっていると、ビジネス上のコストが高くなり、予算が圧迫され、組織の他の部分への経済的インセンティブがより低くなる恐れがあります。

組織文化を変えるには

組織文化を変えるには

まずは自社の現在の文化タイプを把握することが大切です。その強みと弱みは何でしょうか?市場や広い世界の変化に対応できているでしょうか?たとえば、リモートワークの急速な普及は、多くの企業のあり方を変え、従業員の仕事の満足度やセキュリティの重要性に焦点が当たるきっかけとなりました。

従業員満足度調査や自己評価は、顧客やサプライヤーからのフィードバックとともに、非常に有益な情報となります。暗黙の規範、前提、期待があるかどうかを検証しましょう。従業員同士がどのような行動をとっているか、日々の仕事の習慣、そして高いパフォーマンスを発揮している従業員の共通点を見てみましょう。その目的は従業員の働き方を理解することです。

現在地が分かれば、どこに行きたいかを考えられます。そして、さまざまな組織文化のタイプの中で、どの要素が自組織のビジョンに最も適しているかを見極められるようになります。

組織文化の変容のための5つのステップ

組織文化の変容のための5つのステップ

  1. 中核となる価値を明確にする

    あなたの働き方にはどのような狙いがありますか?これには、社員、サプライヤー、顧客に対する接し方も含まれます。中核となる価値はビジネス上のすべての行動の基準となります。それが何なのかを把握したら、従業員に伝え、組織と従業員全員にとってどういう意味合いがあるのかを説明しましょう。

  2. 方向性を示す

    変革を進める上で、ビジネスリーダーが自分たちの役割を理解していることが大切です。組織文化の転換を成功させるために、リーダーは何を知り、何を感じ、何をすべきなのでしょうか?組織文化の変容の過程で、重要なメッセージを伝えチームをサポートする体制が整っているでしょうか?

  3. 従業員への働きかけ

    従業員とビジョンを共有し、それを絶えず更新し、フィードバックを求めましょう。従業員が日々どのように働いているかは、企業文化を決定的に左右します。会社を前進させる上で重要な役割を果たすのは人です。2021年にDeloitte社が発表した「Global Human Capital Trends」と題した調査報告の言葉を借りると「あらゆるレベルの個人の行動をより大きな目標に結びつけることで、リーダーは最もありふれた行動にも意味を与えることができる」のです。

  4. 適切な人を採用する

    企業文化には多様性が必要です。同じ考え、同じ行動、同じ外見の従業員を揃えることが目的ではありません。むしろ組織の価値観を共有し、その価値を高めつつ、独自の方法で貢献できる人材を探さなければなりません。

  5. 一貫性を保ち、忍耐強く

    進捗を監視・分析し、集中力を持続させます。企業文化はビジネスのあらゆる側面とその機能に深く根ざしています。ハーバード・ビジネス・レビュー誌の言葉を借りれば、企業文化を変えるには「命令ではなくムーブメント」が必要なのです。

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