後継者の育成: リーダーシップパイプラインを作る

将来の幹部候補を選定できていない場合、キーパーソンを失えば会社の長期的な業績に響きかねません。リーダーがその座を降りても組織に空白ができないようにする方法を紹介します。

リーダーシップ | 所要時間: 10分

人気テレビシリーズ『メディア王 〜華麗なる一族〜』(原題: Succession )は、機能不全に陥ったロイ家の権力争いを描き、視聴者の心をつかみました。抱腹絶倒のコメディである一方で、サクセッションプランニングの典型的な反面教師でもありました。

現実のビジネスの場合は、経営のバトンを渡すときのために備えができていなければなりません。とはいえ、自分がいつ大きな病に倒れるとも、いつキーパーソンが会社を去るとも分かりません。そのためにできることは、組織階層のしっかりとした土台を作ることです。そうすることで、変化を迫られたときにうまく対処することができます。

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サクセッションプランとは

サクセッションプランとは

サクセッションプランニングとは、リーダーの退職や死亡、辞任に備えて、リーダーに変わる社員を発掘・育成するための事業継続戦略です。Society for Human Resource Management (SHRM)は、「パイプラインに人材を確保しておくための集中的なプロセス」と定義しています。

よく練られたリーダーシップサクセッションプランがあれば、混乱を最小限に抑え、権限委譲の必要が生じたときにスムーズに行うことができます。これは安定性の維持に不可欠ですが、多くの組織はリーダー交代への備えが十分にできていません。事実、SHRMによれば、正式なサクセッションプランがある組織は全体の4分の1未満です。

重要なのは、サクセッションプランニングは単に後継者を指名するだけではない点です。むしろ、優秀な幹部候補人材をプールしておくことを指します。必要であればいつでも幹部の代わりが務まる人間が常にいる状態を作るのが目標です。

チェスのようなものと考えると分かりやすいでしょう。次の一手だけでなく、数手先、数十手も計画しておく必要があるのです。駒が1つ欠けた場合には、残りの駒でどのように勝つかを考えなければなりません。

本当に効果のあるものにするには、実行に移すよりもずっと前からサクセッションプランを立てておかなければなりません。ところが、SIGMA Assessment Systemsのレポート「Report on the State of Succession Planning in 2023」を見る限り、このことに納得していないリーダーはまだまだいるようです。

  • リーダーの10人に1人は、サクセッションプランニングにかかる時間と費用が価値に見合っていないと考えている。

  • 半数近くのリーダーは、サクセッションプランニングは経営上の利点はあるかもしれないが財務上の利点はないと考えている。

しかし、McKinseyによれば、しっかりとしたサクセッションプランがある組織は株主還元の点で競合他社を上回る可能性が2.2倍高いというのが現実のようです。

リーダーシップパイプラインの姿

ビジネスのサクセッションプランニングで鍵を握るのが、リーダーシップパイプラインの構築です。リーダーシップパイプラインとは、会社の業績を大きく左右する役職まで人材をどのように育てるかを示したものです。CEO候補を見つけるだけでなく、日々のオペレーションに欠かせない要職を埋めるのにも役立ちます。

現在でも多くの会社で使われているものに、ビジネスコンサルタントのRam Charan、James Noel、Stephen Drotterの3氏によって提唱されたリーダーシップパイプラインモデルがあります。これは、職場におけるリーダーシップの自然な進行を示しており、以下の6つの転換点からなります。

  1. 自己の管理から他者の管理へ – 初めてマネージャになったとき

  2. 他者の管理からマネージャの管理へ – 個人の管理から監督者の管理への移行を学ぶ

  3. マネージャの管理から部のマネージャへ – 監督者の管理から部またはチーム全体の管理へ

  4. 部のマネージャから事業のマネージャへ – 管理のマインドセットから、複数のチームを鼓舞するリーダーのメンタリティへ

  5. 事業のマネージャからグループのマネージャへ – ビジネスの事業部全体を運営する方法を学ぶ

  6. グループのマネージャから会社のマネージャへ – 組織全体を監督する責任を持つCEOになる

この枠組みを使って、マネージャの階段を一段ずつ上って徐々にリーダーへと移行するなかで必要になるスキルを伸ばそうというのが、このモデルの考え方です。

サクセッションプランが必要な理由

サクセッションプランが必要な理由

早期退職をする人やワークライフバランスの改善を求めて転職する人が多い現状では、サクセッションプランニングがかつてないほど重要になっています。サクセッションプランニングは、会社と社員の双方に多くのメリットがあります。

不測の事態に備えることができる

想定外の離職者が出たときに交代をスムーズに行える点が、サクセッションプランニングの明らかな利点としてまず1つ挙げられます。社内の優秀な人材プールから交代要員を選ぶことができれば、会社が長期的に安定しますし、誰もが安心できます。

社外からの人材で充当するのは、たいていうまくいきません。組織のコアバリューで育ったわけでもなく、ブランドや顧客への理解も不足しているからです。リーダーシップのサクセッションプランニングは、これを避けるのに役立ちます。

要職にふさわしい人材を見つけられる

効果的なサクセッションプランニングをすれば、幹部に空きが出たときにそのポジションを務めるのに必要な素質、スキル、意欲を備えた優秀な人材を見つけることができます。多様な人材に機会を提供することで、リーダーシップパイプラインの公平性とインクルージョンを高めることができる点が重要です。

定着率とロイヤルティを高めることができる

サクセッションプランの策定は、優秀な人材を引き留めるのに有効です。意欲的な社員は、自分の将来に対して時間と労力を投資してくれたことに感謝し、社内での昇進機会にモチベーションを感じます。それによって会社へのロイヤルティを保ってくれる可能性が高まります。

エンゲージメントが向上する

明確なキャリアパスを示すことで、社員のエンゲージメントが高まり、「大切にされている」と強く感じてもらうことができます。ビジョンの共有によって価値を感じられるようになり、誰もが声を聞いてもらえる、より協調的な職場環境につながります。

採用費用を抑えられる

サクセッションプランニングによって、採用やオンボーディング、研修に割く時間と費用が最小限に抑えられます。社内の幹部候補者を育てることに重きを置くので、社外の採用活動に充てていたリソースの節約になります。

パフォーマンスが向上する

サクセッションプランニングは将来の利益になるだけでなく、今現在にもプラスに働きます。トレーニングと能力開発の機会によって、昇進とともに社員のスキルと知識が強化されていきます。

サクセッションプランがない場合のリスク

サクセッションプランがない場合のリスク

考えてみてください、「あの人」がいなくなったらどうなるか。キーパーソンの離職による波及的な影響は計り知れません。実際、LinkedInが行ったある調査では、ある人が辞めたというだけで離職を考えたことがある人は被雇用者の59%に上るそうです。

豊富に経験を積んだ人間が会社を去るときには、会社のシステムやプロセス、人に関するたくさんの情報も一緒に持って行くことになります。それどころか、何年も蓄えてきた取引先の情報をもとに、競合するビジネスを立ち上げる可能性もないとは言えません。

それに、財務上のリスクもあります。適任の後継者がいない状態でキーパーソンが会社を去った場合、どうにかビジネスを回せても、生産がスローダウンし、収益が落ちる可能性が高くなります。

日々のオペレーションにとらわれてサクセッションプランニングがおろそかになっているビジネスオーナーはたくさんいます。やらなければならないことが多いことを考えれば、それも無理のないことかもしれません。しかし、それでは組織が脆弱になってしまいます。

リーダーシップパイプラインを構築する方法

リーダーシップパイプラインを構築する方法

サクセッションプランを機能させるには、社員に簡単に伝達できて、さまざまなチームや部署に展開できるものにする必要があります。効果的なリーダーシップパイプラインを作るためのアドバイスを以下に紹介します。

  • 重要な役職と責務を明らかにする

    はじめに、長期的に健全な経営をするために欠かせない重要な管理職のポジションを明らかにします。サクセッションプランニングの戦略としては、CEOや人事部長、スーパーバイザーなど個々のポジションに特化する方法と、求められるスキルが似通っている階級をターゲットにする汎用的なアプローチを採る方法があります。

    ビジネスのニーズの変化に適応できるように、それぞれのポジションの職務と責務を定期的にレビューして更新するようにしましょう。

  • スキルギャップを明らかにする

    現在のタレントプールを評価して、今すぐリーダーになれる人や、ゆくゆくは管理職に就けそうなポテンシャルがある人を見ます。タレントアセスメントなどのツールを使って個々の能力を評価し、将来的に後継者になるための準備を始められるようにスキルギャップをピンポイントで特定しましょう。

    プロセスの早い段階で後継者候補を見つけることで、リーダーとして成功するために必要な知識と経験を身につけてもらう時間的余裕が生まれます。

  • コーチングと能力開発のプログラムを確立する

    幹部候補者の成長を支える正式なトレーニングプロセスを整備して、真剣に取り組んでいることを社員に示しましょう。これには、例えばコーチングやジョブシャドウイングの形を取るか、日々の職務を少しずつ拡大していくなどの方法が考えられます。

    あるいは、地域の大学と提携してスタッフが専門的な資格に向けて勉強できるようにするものよいでしょう。さらに、新卒者にエントリーレベルのトレーニーシップを提供して若いうちから人材を育て始めるのも手です。

  • 透明性を確保する

    サクセッションプランをうまく組み立てるには、候補者の選定と育成、成長状況の追跡の方法を明らかにします。昇進の階段を上るために必要なことをはっきりと示すとともに、未来のリーダーを効果的に生み出す方法について遠慮なく意見を求めましょう。これは、社員のモチベーションとエンゲージメントに対してプラスに働きます。

  • 育成の状況を追跡する

    リーダーシップパイプラインが結果を出しているかどうかを把握する必要があります。適切な人間が適切な役職に昇進しているか、候補者プールを広げる必要があるか、などを確認します。

    サクセッションプランニングプロセスの重要なステークホルダーと定期的に打ち合わせを持ち、社員の成長をモニタリングしましょう。これは、パルスサーベイやマネジメントトレーニングソフトウェアを使って行えます。社員定着率やキャリアパス比率といったサクセッションプランニングの指標も、プログラムの効果の度合いを測るのに役立ちます。

    結局のところ、ビジネスの成否は会社に残った人にかかっています。だからこそ、時が来たときにステップアップできる頼れる人材が必要なのです。

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