リーダーシップと感情的知性: 重視される理由
かつてリーダーシップで最も大事なのは、権威を示すことだとされていました。リーダーは、強い発言力や力強い主張を持ち、決まった計画をトップダウンで伝えるものでした。しかし現在は、感情的知性などの人間的なスキルが注目されています。
感情的知性とは
感情的知性(EI)とは、自分の感情を効果的に認識し、評価し、コントロールし、表現できる能力と定義できます。また、感情により従業員やチームを理解し、共感し、結びつける方法でもあります。感情的知性は「ソフト」なリーダーシップスキルであることは間違いありませんが、職場で成果を挙げるための鍵の1つです。EI評価のプロバイダーであるTalentSmartが感情的知性と、その他の30以上の重要な職場スキルとの比較テストを実施したところ、EIは現在最も強力な業績予測因子であり、さまざまな仕事における成功の58%に関与しているとわかりました。
EIはテストで測定され、参加者にEQスコアが提供されることがあります。IQはその人の精神力とスキルセットを示すものですが、EQは優れたリーダーを見分け、チームプレイが得意な人と1人で最高の仕事をする人を見分けるために、利用される頻度が多くなってきています。
リーダーが重視すべき感情的知性の要素
では、感情的知性とは具体的に何で成り立っているのでしょうか?アメリカの心理学者ダニエル・ゴールマン氏は『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌に寄稿し、リーダーのための感情的知性の主な要素を特定しました。またその要素が、その後の研究の基礎として位置づけられています。
1. 自己認識
自己認識を高めることで、リーダーは自分の長所と短所を明確に把握できるだけでなく、自分の行動や振る舞いが他者にどのような影響を与えるかを理解できます。
2. 自己規制
自己認識の後には自己規制が続きます。自己規制によりリーダーは、リスクを引き起こしかねない潜在的なポイントや不用意な反応を判断する方法を編み出すことができます。また、立ち止まって状況を把握する手助けにもなります。そうすることで、焦って行動したり、声を荒げたり、他のさまざまに不用意な方法で自分の権威を強化したりするなど、信頼を損ねるような行動をとることを避けられます。これにより、リーダーが怒りや不満のままに行動することによる、マイナスの結果を避けることができます。
3. モチベーション
優れたリーダーシップにおいて、モチベーションは非常に重要です。TeamStageによると、モチベーションの高い社員は、20%以上効率的に働くとされています。さらに、モチベーションの高い社員は生産性を向上させる方法を探し、他の人の進歩をサポートします。また、エンゲージメントとモチベーションは、欠勤率を41%減少させます。
有能なリーダーは従業員を引っ張っていけるよう、自分自身のモチベーションを高め、維持する必要があります。楽観主義はモチベーションと強く関連しており、波及効果があります。モチベーションの高いチームは積極的で、それがチームワークと社員の心身の健康を促進し、生産性を高めるのです。
4. 共感力
共感力は優れたソーシャルスキルであるだけではありません。感情的な知性が高いリーダーシップの重要な柱でもあります。
共感を示すリーダーは、相手の立場になって考え、相手の行動や反応を理解して、把握した内容に基づいてマネジメント戦略を構築します。共感力は、課題や対立が起こりそうな場面を予測したり、チームメンバーがどのように感じているかを評価したり、良くない行動に異議を唱え、建設的なフィードバックを提供したりする際に役立ちます。
Center for Creative Leadershipの研究によると、チームに対する共感をより明確に示すマネージャーは、より良いパフォーマンスを達成できることがわかっています。
5. ソーシャルスキル
ここ数年で、仕事の質が劇的に変化しています。その変化の一環として、仕事と家庭の境界があいまいになり、それぞれに関連する行動の違いも明確ではなくなりました。チームメンバーは、職場でも家庭と同様に扱われることを期待しているため、リーダーはその期待に応えて、メンバーそれぞれを個人として大切にする必要があります。つまり、オープンかつ正直なコミュニケーションをとり、同僚の経験に対し理解し尊重する姿勢を見せるべきなのです。
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リーダーシップにおける感情的知性の重要性
職場におけるインクルージョンと精神面の健康への注目が高まるなか、リーダーはこれまで以上に感情的知性を示す必要があります。組織の成功に必要な多様性のあるポジティブな文化を創造して、最良の人材を採用して維持し、最終的に収益を向上させるために、感情的知性は不可欠です。
Consortium for Research on Emotional Intelligence in Organizationsの調査によると、EIは質の高い採用においてプラスに働き、アカウントマネージャーの収益性を高め、あらゆるレベルの雇用において生産性を向上させることがわかっています。また、売り上げを伸ばし、ストレスレベルを下げる効果もあります。
感情的知性を身につけ活用することで、リーダーは次のことを達成できるようになります。
エンゲージメントの向上
ポジティブで生産的な職場文化を発展させることで、エンゲージメントを向上させることができます。逆に、意欲を失った社員は、生産性を低下させ、共同作業に悪影響を及ぼし、離職率の上昇につながる可能性があります。Gallup社によると、米国において従業員が意欲を失うことは、年間約4,500億~5,500億ドルの損失に相当します。
インタラクションの改善
感情的知性は信頼関係を築き、人の長所を引き出します。また、リーダーがチームの才能とスキルを最大限に発揮できるようにするうえで役立ちます。
アイデア共有の促進
心理的な安心感を得ることで、人は創造力を発揮し、革新を起こすことができます。感情的知性のあるリーダーは、建設的なフィードバックを提供してこれをサポートできます。
心の中の葛藤の解消
感情的知性のあるリーダーは、ストレスや燃え尽き症候群1、ネガティブな感情などの問題にいち早く気づき、その芽を摘み取ることができます。
変化への対応
私たちは激動の時代に生きています。EIはレジリエンスを高めるため、従業員が変化に適応し、不安定な状況を生き抜いていくのに役立ちます。
感情的知性の心理的原則は、職場以外での生活と同様に、職場にも適用されます。ポジティブな感情は、前向きな思考や、新しいスキルの習得を目指す傾向、積極的に人と付き合うことにつながります。一方ネガティブな感情は、失敗や脅威への予感の高まり、他人に不信感を抱く傾向、「自分の身は自分で守る」という考え方や視野の狭さにつながります。
リーダーが感情的知性を伸ばす方法
感情的知性には生まれつきのものとそうでないものがありますが、伸ばすことができるスキルです。そのために実践できる手順をここで紹介します。
自分にとって重要なものは何かを把握しましょう。つまり、個人的に重要な価値観や原則、そしてビジネスを推進するために重要な価値観や原則を再確認するのです。
過ちを認め、その結果を受け入れましょう。人のせいにするのは避けて、説明責任を果たすことで、自分や自分の行動にどのような影響があるかを示すことができるよう備えておきましょう。
怒りや失望、不満などの感情に圧倒されそうになったときは、冷静さや理性を保つよう努力しましょう。距離を置く、時間を置く、呼吸法を試すなどが効果的です。
人と接するときは、自分の声とボディーランゲージに気をつけましょう。
尊敬を得られるよう努め、チームに自分を知ってもらい、信頼してもらうのを待ちましょう。
自分自身のモチベーションを高めましょう。何が自分の原動力なのかを考え、定期的に新たな目標を設定しましょう。
楽観主義を実践しましょう。どんな状況でも前向きに考え、その思考に周囲を巻き込んでいきましょう。
感情的知性を活かしてリーダーシップをとる方法
感情的知性は単に身につけるものではなく、実世界で応用するべきものです。リーダーがEIを活用するための実践的な方法を、ここに紹介します。
1人ひとりとつながる
チームメンバーそれぞれのことを知り、彼らのさまざまな経験を理解するために時間をかけましょう。そうすることで、その人にとって何が重要なのかを理解し、状況や感情に対するそれぞれの反応を考慮できるようになります。また、それぞれのメンバーを気にかけていると示すことも大切です。誕生日や仕事の記念日を覚えていたり、メンバーが直面する家庭の事情を気にかけたりなど、ちょっとした気遣いを見せることも有用です。
しかし個人的なつながりは、双方向のものです。理解を深めるために必要であれば、相手に対して自分のことを打ち明け、弱さを見せる覚悟が必要です。
積極的に褒める
リーダーやマネージャーは、結果だけを褒めるべきではありません。誰かが大きな進歩を遂げたときや、何かうまく行ったことに少しでも貢献しているときにも、そして何か改善に気づいたときはいつでも、適切であれば公の場で成果を認める必要があります。
耳を傾け、聞き続ける
従業員が言おうとしていることを真剣に聞くには、時間がかかるかもしれません。効果的な傾聴とは、自分の判断を差し控えて、アイデアや懸念を共有してもらえるよう安心できる空間を作り出すことでもあります。コミュニケーションスキルを向上させる一環として、フィードバックを求め、それに対して行動することで、相手の意見を聞いていることを態度で示すことができます。
全員に発言権を与える
すべての人に貢献できるチャンスがあり、それぞれの意見が届いていると感じてもらえるようにしましょう。自信をもって発言できるようになるまでに時間がかかる人もいるので、辛抱強く対応します。
共感を示しながらコミュニケーションを進める
組織の多様性を確保するためには、共感が大切です。できる限り相手の立場に立って考えましょう。コミュニケーションをとる前に、自分のメッセージを相手がどう受け取るかを考えましょう。
衝突には慎重に対処する
型にはまった対応ではなく、さまざまな状況や個人によって異なる衝突の解決方法を学び、対応方法を変えていきましょう。
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