2020年に起きたさまざまな社会的・政治的出来事をきっかけに、多くの企業が職場でのダイバーシティとインクルージョン(D&I)への取り組みについて繰り返し表明しています。

NikeやDisneyといった巨大ブランドは、職場文化を取り巻くこの重要な問題に注力することを約束しました。しかも、この動きは有名ブランドだけにとどまりません。それより規模の小さい企業も、職場でのダイバーシティとインクルージョンに関する前向きな変化をすみやかに遂行することを約束しています。

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多くの管理職や幹部にとって、真っ先に関心が向くのは、ダイバーシティとインクルージョンのビジネスケース、つまり商品やサービスをより幅広い組織に売り込める機会かもしれません。しかし、ビジネスケースに焦点を当てる姿勢は誤りであり、道徳的な意義に焦点を当てる方がはるかに適切だと、専門家らは指摘しています。

そこでまず、ダイバーシティとインクルージョンとは何か、そしてなぜこれらが重要であるのかを詳しく見ていきましょう。

ダイバーシティとインクルージョンの意味

私たちはそれぞれ違った存在です。そして、この違いのために直接的または間接的に差別を受けたり、同僚より不利な扱いを受けたりすることがあります。こうした差別には、露骨な嫌がらせだけでなく、日常的なマイクロアグレッションなども含まれます。

典型的な差別の例は、女性より男性の方が昇進しやすいといったケースでしょう。しかし、車椅子では入ることができない建物や、イスラム教徒の社員の存在を考慮せずにアルコールを奨励する職場文化なども、差別の例に含まれます。

多くの国では、さまざまな差別を減らすために、いくつかのいわゆる「特性」を法律で保護しています。例えば英国では、2010年平等法で以下の特性を保護しています。

  • 年齢
  • 障がい
  • 性転換
  • 婚姻および同性婚
  • 妊娠・出産
  • 人種
  • 宗教または信条
  • 性別

不平等は多くの場合、人種、性別、階級など複数の特性が重なる領域で発生します。複数の特性を持つ人物または集団(例: 有色人種の女性)が差別を受けている状況は、インターセクショナリティ(交差)という概念で説明されています。

地域によっては、職場での平等と公平な扱いを推進する法律が存在していないことがあります。例えば米国の場合、LGBTQ+の社員がすべての州で職場における差別から保護されるには至っていません。また、社会経済的背景、アクセント、ニューロダイバーシティなど、まだ一般的に法律で保護されていない差異もあります。

では、ダイバーシティとインクルージョンは何が違うのでしょうか。ダイバーシティとは、社員、社員のアイデンティティ、社員のバックグラウンドに存在する違いを認識することです。インクルージョンとは、こうした違いを心から尊重して受け入れ、それが企業にメリットをもたらすと確信することです。

ここで重要なのは、ダイバーシティのある職場がインクルーシブな職場であるとは限らないことです。一方が実現すればもう一方が自動的に実現するわけではありません。この点について、Robin J. Ely氏とDavid A. Thomas氏はHarvard Business Reviewで次のように述べています。「少数派グループに属する人たちの数を増やしても、その人たちが評価され尊重されていると感じられていなければ意味がないのです」。

ダイバーシティとインクルージョンが重要な理由

ダイバーシティとインクルージョンが重要な理由

ダイバーシティとインクルージョンの促進が社会的・道徳的に有意義であるだけでなく、ビジネスケースの面でも重要であることは言うまでもありません。本当の意味でインクルーシブな企業では、社員が恐れや不安を感じることなく、効果的に協力し合うことができます。そして、企業が多様なニーズに積極的に対応することで、すべての社員がプロフェッショナルとして成長できるようになります。

ダイバーシティとインクルージョンがもたらす具体的なメリットに関して、本当の意味でインクルーシブな職場には以下のような特徴があります。

より多くの人材を惹きつける

進歩的な企業ほど、優秀な人材を惹きつけ、採用している傾向があります。一方、企業のダイバーシティとインクルージョンの取り組みが金銭的利益(すなわちビジネスケース)を重視しすぎている場合は、少数派に属する応募者がその企業の公正性に疑問を感じ、内定を辞退する可能性があります。

ミレニアル世代を惹きつける

ある調査によれば、「woke(意識の高い)」世代と呼ばれるミレニアル世代の47%が、インクルーシブな勤務先を積極的に探すと答えています。1 Z世代も同様で、面接の際に、企業のダイバーシティとインクルージョンの取り組みについて質問をする傾向があります。

社員をつなぎとめる

パンデミックの前は、「自分らしさを仕事に持ち込もう」というのが1つの流行でしたが、自分の本当の姿を見せることを奨励することが、インクルーシブではない職場で共感を得ることはほとんどありませんでした。社員が祈りを捧げたり、搾乳をしたり、同性のパートナーについて話したりすることが気軽にできない職場では、社員の組織に対する忠誠心が次第に低くなります。

企業が多様な社員を長期的につなぎとめるには、真の帰属意識を育み、従業員体験の向上に注力する必要があります。

会社の評判を高める

コンサルティング会社のKorn Ferryは、Fortuneと提携して「世界で最も賞賛される企業」(World’s Most Admired Companies: WMAC)ランキングを発表しています。同社によると、上位に入る企業に共通する大きな特徴の1つは、ダイバーシティとインクルージョンに優先的に取り組んでいることです。2 企業は、ビジネス戦略にダイバーシティとインクルージョンを組み込むことで、顧客、クライアント、サプライヤー、そして採用候補者の間の評判を高めることができます。

創造性を高める

チームのダイバーシティを高めることは、グループシンク(集団思考)を回避し、より創造的な成果を生み出すのに役立ちます。ただし、社員が安心して自分の意見を披露でき、自分のアイデアが撤回や拒絶されることはないと信頼できることが条件となります。

幸福感を高める

ダイバーシティとインクルージョンが確保された職場環境と社員の幸福感の間には強い相関関係があることが、Psychology Todayの調査で明らかになっています。帰属意識を感じられない状態は、社員の幸福感に悪影響を与え、転職を考え始める可能性が高くなります。

企業文化にポジティブな影響をもたらす

ダイバーシティの高い組織は、さまざまなアイデア、経験、働き方がもたらすメリットを享受できます。宗教や言語、家族構成など、あらゆるバックグラウンドを受け入れ、賞賛する企業では、企業文化が強化されるのです。

より良い成果を上げる

ダイバーシティとインクルージョンは強力なビジネスケースとなります。数十年にわたるダイバーシティとインクルージョンの研究で知られるMcKinseyは、「経営陣のダイバーシティと業績向上の可能性の相関関係は時間が経つほど強くなる」と述べています。3 またForbesは、「民族や人種のダイバーシティを特徴とする企業は、ほぼすべてのカテゴリーで他の企業をはるかに上回る業績を上げている」ことを発見しました。4

ただし、金銭的な面だけが重要なのではありません。Fearless FuturesのHanna Naima McCloskey氏は、ダイバーシティとインクルージョンのビジネスケースが必要であるという考え方はやめるべきだと述べています。「人間らしさを証明することが出発点であるのなら、そのような職場はあなたを人間として見ていないことになります。『インクルージョン』というものを実現しようしたきっかけはなんでしょうか?」と、彼女は問いかけています。

すべての社員が安全で協力的な環境で働く権利を持っていることを理解していれば、ダイバーシティとインクルージョンの道徳的な意義は明らかです。そのような職場は、社員がプロフェッショナルとして成長し、意見を述べ、その意見を共有できる場となります。Harvard Business Reviewもこのような考え方を支持し、ビジネスリーダーは「学習、イノベーション、創造性、柔軟性、公平性、そして人間の尊厳をも含む、成功に向けたより幅広いビジョンを採り入れる必要がある」と記しています。

新型コロナウイルス感染症とダイバーシティ・インクルージョン

新型コロナウイルス感染症とダイバーシティ・インクルージョン

新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、ダイバーシティとインクルージョンのプログラムにも影響を与えています。パンデミックによる財務上の危機を乗り越えるために幹部らがダイバーシティとインクルージョンの優先順位を引き下げたため、社員はこの分野で進展が見られなくなったことに不満を感じています。さらに、このような時期に最も大きな困難に見舞われたのは、少数派に属する社員たちでした。McKinseyのレポートによれば、女性、LGBTQ+の社員、有色人種、働く親たちは、誰もが苦境に立たされています。

もう1つの大きな課題は、リモートでのモニタリングやサポートが難しい、社員のメンタルヘルスに関する問題です。すべてのダイバーシティグループでメンタルヘルスの問題に関する報告が増えており、なかでも女性は、問題が深刻化したとする報告の数が男性の2.6倍に達しています。中国、インド、ブラジルのような新興経済国では、この割合がかなり高くなっているのが現状です。

組織は、職場でのダイバーシティとインクルージョンに関するトレーニングをリーダーに実施することで、リモートワークによって引き起こされたインクルージョンの問題に対処し、ギャップを埋めることができます。また、すぐにできる取り組みとして、会議の司会者を持ち回り制にしてすべての人に発言機会を与えたり、他の人と共同生活をしている社員にカメラなしでの参加を許可したりするといった方法が考えられます。しかし、迅速な取り組み以上に行うべき戦略が企業にはあります。それは、ダイバーシティとインクルージョンにまつわる組織固有の問題を把握し、克服するための具体的で真摯な取り組みです。

職場でダイバーシティとインクルージョンを高める方法

職場でダイバーシティとインクルージョンを高める方法

では、状況を改善するにはどうすればよいのでしょうか。ここでは、職場でのダイバーシティとインクルージョンの改善に取り組む組織が実施すべきステップをご紹介します。

職場でのダイバーシティとインクルージョンの現状を評価する

ご自分の組織のことをどの程度把握していますか。公表することはもちろん、聞くことさえ難しい話も含め、あらゆることを知る用意はあるでしょうか。ダイバーシティとインクルージョンの現状を評価するためには、そのようなレベルまで踏み込んだ取り組みが必要になります。

Harvard Business Reviewが提案しているのは、組織がさまざまな目的ですでに収集しているデータの利用範囲を、ダイバーシティとインクルージョンにまで拡大することです。データを収集して共有することで、改善状況の長期的なモニタリングや同種のビジネスとの比較が可能になるだけでなく、説明責任と透明性を高めることができます。

現時点では、Fortune 500企業の大半はダイバーシティとインクルージョンに関するデータを共有していませんが、透明性を確保することで、ダイバーシティとインクルージョンの取り組みに対する社員、採用候補者、顧客の信頼を高めることができます。

ダイバーシティとインクルージョンに関するポリシーを強化する

ダイバーシティとインクルージョンの戦略を強固なものにするためには、関係する幹部らから口頭で賛同を得るだけでなく、正式なポリシーと手続きを準備することが欠かせません。組織はこれらを定期的に見直し、実施する方法を見つける必要があります。少数派に属する社員が安心感と帰属意識を持てるようになって初めて、彼らのアイデアや創造性をビジネスに十分活かせるようになるのです。

採用活動に目を向ける

人事責任者は、採用活動によく利用されるアプリなどのツールが必ずしも中立的ではないことに留意する必要があります。このようなツールに、人種、性別、社会経済的背景など特定の特性に対する偏見が意図せず含まれているかもしれません。この問題に対処するには、採用のために利用するツールやテクノロジーを定期的にテストして見直す必要があります。

すべての採用責任者を対象に、アンコンシャスバイアス(ステレオタイプに基づいて無意識に人を判断すること)や親近感バイアス(自分と似たような人に惹かれること)に関する正式なトレーニングを実施することを検討しましょう。また、一度に1つのポジションに対して募集をかける方式から、複数のポジションで一斉に募集をかける方式に切り替えることも、効果的な戦略になる可能性があります。

ダイバーシティに関するトレーニングを継続的に実施する

アンコンシャスバイアスなどの分野を対象とした単発のトレーニングは良いきっかけとなりますが、トレーニングは継続的に行う必要があります。データを収集して分析すれば、重点をおくべき分野がわかるはずです。変化はトップダウンで起こるため、幹部が模範となってダイバーシティに関するトレーニングに取り組む必要があります。アンコンシャスバイアスの問題があることに気づいたら、その認識を意識的な行動につなげて行動を変える方法を知ることが大切です。

コミュニケーションを改善する

組織は、社員の経験に耳を傾ける方法を見つけ出す必要があります。一方、社員は自分の声が重要であることを知る必要があります。双方向のビジネスコミュニケーションを日常的に行うことが難しい場合は、問題を提起するための新たな手段を社員に提供するという方法があります。独立した組織を苦情の受付に利用すれば、声を上げた社員が反発を受ける事態を防ぐのに役立つでしょう。

ミーティングをよりインクルーシブにする

すべての人に配慮するには、チェックリストを確認する以上の取り組みが必要です。ミーティングの効果を高めてインクルーシブなものにするために、すべての人を名前で呼んで迎え入れ、事前にアジェンダを送付しておきましょう。

また、デスクを持たない社員やリモートで働く社員がいる場合は特に、タイムゾーンや言語の違いを考慮することが重要です。例えば、全社員が必ず参加できるようにするには、オフィスの業務時間と倉庫の業務時間に合わせた時間で交互にミーティングを開くようにします。

対面でのミーティングの場合は、全員分の席があることを確認し、飲食に関する要件を事前に調査しておく必要があります。

インクルージョンの促進は「万人向け」モデルの構築ではない

インクルージョンの促進は「万人向け」モデルの構築ではない

ビジネスリーダーたちは、すべての人を同じように扱えばそれでいいという考え方から脱却しています。社員が組織に適応することを期待するのではなく、組織を社員に適応させることが私たちの課題なのです。

組織の事情や背景を無視しないようにしましょう。ダイバーシティとインクルージョンに関する取り組みの成功と持続にきわめて大きな役割を果たすからです。早い段階からすべての社員の意見を集めれば、効果はさらに高まるでしょう。また、管理職が戦略の計画と設計に関わり、その戦略の陣頭指揮を執る必要があります。

重要なことは、ダイバーシティとインクルージョンの取り組みを、単なる人事部門の仕事の1つとしてではなく、会社の考え方や運営方法の全面的な刷新として捉えることです。真摯な態度で、透明性を確保し、説明責任を果たしながら取り組むことを約束してください。そして最後に、ミレニアル世代やZ世代と同じように考え、職場でのつながりを最大限に活かすことに注力しましょう。

職場文化にとって重要なダイバーシティとインクルージョン

職場文化にとって重要なダイバーシティとインクルージョン

職場文化、すなわち職場環境の雰囲気は、そこにいる人々によって作られます。自分の価値が認められ、自分が組織の一員であると誰もが感じられる企業なら、採用、交流、生産性などあらゆる面にポジティブな影響をもたらす強固な職場文化を作り上げることができるでしょう。

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