大量離職とは?知っておくべきこと
大量離職は確実に起きています。しかし、大量再雇用は起きているのでしょうか?なぜ多くの人が仕事を辞めているのか、その流れはどうすれば止められるのか、そして優秀な人材をどう引き寄せられるのかを探ります。
世界的なパンデミックから2年の歳月が経ち、新たな優先順位が生まれ、期待されるものも一新され、従業員の新しい行動と社員のエンゲージメントを確保するための新たな方法が生まれつつあります。
2021年には、米国だけで4,700万人以上の労働者が仕事を辞めています。PwCの調査によると、現在、世界中の従業員の5人に1人が今後12か月以内に離職を予定しています。1 大量離職と呼ばれるこのプロフェッショナルの流出は、労働市場を一変させつつあります。
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大量離職とは?
このパンデミック中に、テキサスA&M大学准教授で組織心理学者のAnthony Klotz博士が「大量離職(Great Resignation)」という表現を生み出しました。2 彼はこの現象を、社員の燃え尽き症候群、新型コロナウイルスの不確実性の中で停滞していた「抑えられた離職」、より良いワークライフバランスへの欲求、そしてリモートワークによって得られた自主性を保ちたいという願望から必然的に生まれたものと見ています。
「社員として、働き手としてどうあるべきかということは、人としてのあり方の非常に中心的な部分です」と彼は言います。新型コロナウイルスの苦難は、人々に「目的」や「幸福」を問うきっかけを与えました。そして、それが「人生の転機」になると同博士は考えています。3
Pew Research Centerの最近の調査では、昨年米国の「離職率」は11月に20年ぶりの高水準に達していたことが明らかになりました。しかし、従業員の不満は米国以外でも広がっています。英国、スペイン、オーストラリア、オランダ、フランスでも離職者が増加し、「大量離職」は世界中の労働市場に影響を与えています。一方、ドイツと日本では、一貫して 新しい仕事を探すことに前向きな社員が増えています。
アジア太平洋地域を見ると、特にシンガポールでは中小企業が苦境に立たされています。5社中3社強が、1年前より離職者が増えていると回答し、65%は代替要員の確保に苦労しているとのことでした。4
大量離職を推し進めているのは誰なのか?
離職率の最大の上昇幅(20%)を見せているのは30歳から45歳までの中堅社員です。ハーバード・ビジネス・レビュー誌とKellyOCG Global Workforce Report 2022が示すエビデンスによると、今後2年以内の離職を計画するエグゼクティブは70%を超えています。5
大量離職を推し進めているのも産業界です。ロックダウンによって、デジタルの導入と自動化のペースが押し付けられることになり、実現に必要なスキルを備えた技術部門内の従業員が重宝されています。その需要を背景に、その立場にある人たちは労働市場で活発に行動しています。
技術系に次ぐのが医療系です。もっとも、この分野での離職理由の多くは、新たなチャンスのためというよりも克服できない困難のためです。これは、大量離職がフロントラインワーカーを中心に起こっているという最も有力なナラティブを裏付けるものです。フロントラインワーカーは世界の労働人口の80%に相当します。仕事量の増加や燃え尽き症候群を経験する可能性が最も高く、給与のために人生をリスクにさらしている可能性があります。
離職をプロフェッショナルとして出世するためのルートとする人もいれば、必要に駆られて離職する人もいます。2020年3月以降は多くの女性が求人市場から完全に離れており、その割合は男性の2倍となっています。6
学校やデイケアサービスが閉鎖したりキャンセルになったりすると、親は在宅で子の世話をしたり、高齢者の親族の介護のために中途退職したりするようになりました。その結果、従来なら女性の活躍の場であった接客業、小売業、ヘルスケアなどの分野が人手不足に苦しんでいます。
大量離職と大量再雇用?
大量離職の原因とは?
このような大量離職の原因は、個人的なものから職業上のものまで、また現実的なものから上昇志向に基づくものまでさまざまです。そのうちのいくつかを以下に取り上げます。
1. 低賃金
PwCによると、従業員の雇用を維持するための最大のモチベーションとなるものはやはりお金です。また求職者数よりも欠員数の方が多いため、労働する側の方が依然として交渉上有利です。PwCの調査では、回答者の3分の1以上が次年度に昇給を求めるとのことです。7, 8
また、接客業やレジャーなどの低賃金業界からシフトする動きもあり、これを米国のNational Economic Councilの副ディレクターを務めるBharat Ramamurtiは大いなるアップグレード(The Great Upgrade)と表現しています。より多くのお金を得ることのできる多くのセクターでは、雇用率が離職率を上回っています。9
2. 先行きの不透明感
2021年の米国での離職の主な原因としては、低賃金に次いで、昇進の機会の欠如が挙げられます。10
学習管理システム会社のWisetail社のAli Knapp社長はForbes誌に「会社が自分に投資してくれているという実感があれば、人は心情的に会社に投資する(尽くす)傾向が強くなる」と語っています。「成長機会の創出と伝達は非常に手に入れやすいものです。ただし、そのための基本的なプラットフォームやツールが整っていない企業がほとんどであるため、社員は自分にはその先に何があるのか、どうすればそこにたどり着けるのかが分からないままとなります」11
3. 柔軟性の欠如
通勤時間を減らし、家族との時間を増やし、介護の仕事と収入を両立させることが可能であれば、それを手放したくないと思う社員は少なくありません。米国では、現在在宅勤務をしているプロフェッショナルの54%は、雇用主がオフィスへの通勤の再開を求めた場合、新しい仕事を探すと回答しています。12
リモートワークの活用によって、プロフェッショナルな目標のための自己研鑽に励む余地も生まれます。求人情報サイトのIndeedの調査によれば、アンケート回答者の92%が「情熱を注げない仕事を続けるには人生は短すぎる」と考えており、リモートワークによって制約を感じなくなったと多くの人が回答していることが明らかになりました。13
また、管理職は対面式のスペースに対応する必要もあります。Accentureの調査によると、83%の社員がハイブリッド型のワーキングモデルを好んでいます。LinkedInのデータによれば、現在、7つの仕事のうち1つはリモートまたはハイブリッドの要素があります。14 2020年3月時点では67の仕事のうち1つの割合でした。15
しかし、これではフロントラインワーカーにとっては報酬やモチベーションになっていないも同然で、デスクワークの同僚がリモート勤務や自宅待機を命じられている中で出勤しなければならないという不公平感を多くの人が抱くことになります。
4. 評価されていないと感じる
新型コロナウイルスというストレスにより真価が問われた雇用主の人間力は、かなり不足していることが判明しました。スタンフォード大学の研究によると、労働環境の質が低い企業は、フロントラインワーカーの賃上げの幅が少なく、労働力を支援するよりもむしろ抑制する傾向が強く、結果的に傷口を広げる可能性が高いことが明らかになりました。16
今、多くの小売業やサービス業の従業員が、低賃金ながらも福利厚生、チャンス、そして感情的知性をより多く提供してくれる組織に転職しています。
スタンフォード大学の研究に多くのデータを提供したJUST Capitalの最高戦略責任者Alison Omens氏によると「自分の価値観に合った会社で働くためには報酬が減ることも厭わないかと尋ねると、ほぼ全員が厭わないと答えます」とのことでした。17
5. ストレスと燃え尽き症候群
アメリカ心理学会によると、パンデミック後には、仕事量の増加や労働時間の延長による燃え尽き症候群が過去最高に増えており、危険なワークライフインバランスが生じています。18 世界保健機関(WHO)の報告でも、長時間労働によって脳卒中や心臓病で年間数千人が亡くなっていると指摘されています。19
また、新型コロナウイルスの発生以前よりもストレス値が上昇している人もいます。Indeedのリサーチでは、2020年3月にはミレニアル世代の53%がすでに燃え尽き症候群に陥り、この世代がやはり最も影響を受ける年齢層となっています。20
燃え尽きる理由は属性により異なり、Z世代、X世代、ベビーブーマーでは、経済的な悩みが主たる要因として挙げられています。ミレニアル世代の場合は、自由な時間の欠如が理由です。特にフロントラインワーカーの場合、有給休暇の不足が挙げられます。全労働者の27%は、一日の勤務が終わった後も頭が仕事から離れないと回答しています。21
6. 有意義で興味深い仕事がない
Relay Paymentsの最高人事責任者Amy Zimmerman氏は「人は伸び悩み始めると、飽き始め、そして他の場所を探し始めるものだ」と言います21。
働く人たちは今、魅力的でやりがいを感じられる、より有意義な職を探しています。LinkedInによると、雇用される立場にある人の94%は、勤務先が学習を支援するというコミットメントを示した場合には離職せず長く務めるとしています。
雇用関連のソフトウェア会社のLeverは「フリーランスの仕事の急増、継続教育、昇進の可能性」といったことが、社員の目標設定を高めることになり、また雇用主への期待も大きくしているとの見方を述べています。
大量離職とこれからの働き方
多くの業界では求人があり、スキルが不足しているため、必然的に大量離職は大量再雇用につながりつつあります。実際に、雇用関連のソフトウェア会社のGreenhouseの調査では、10人中8人以上の幹部は、CEOにとっての最優先事項が新入社員の採用になっているとのことでした。
競争力を維持するためには、雇用主は、求職者を遠ざけるものは何か、また求職者を雇用しても定着しないのはなぜかを理解する必要があります。離職率についてそのデータから分かることとは?離職する人物像–そしてその理由とは?これはつまり、給与、職場文化、企業価値、トレーニングおよび開発プログラム、D&I戦略、労働条件、時間と休日、そしてフロントラインのマネージャー 22から経営幹部までのマネージメントの品質と有効性に目を向けるべきということです。
社員にとって組織が魅力的に映らない理由を把握することこそ、採用戦略よりも大きな変化をもたらすきっかけとなります。得られた情報は、ボトムアップからもトップダウンからも納得のいく形で、事業のあらゆるレベルの文化、ポリシー、業務上の習慣に織り込まれる必要があります。雇用主は従業員との対話を続けていく必要があり、従業員のニーズに真摯に耳を傾け、対応し、各自の未来に投資する覚悟を持つことが求められます。
GreenhouseのCEO兼共同創業者であるDaniel Chait氏は「現代は求職者の世界」であると言います。
それには進化が求められます。つまり、従業員が今いる場所に合わせて進化する組織こそ、勝ち組になれるのです。